ねじの豆知識 「止め輪」 第六回 止め輪の 熱処理・表面処理

選びぬかれた材料を生かして止め輪としての機能を最大限に発揮するためには適切な熱処理・表面処理が欠かせません。

ねじの豆知識 「止め輪」 
第一回 止め輪とは?
第二回 止め輪の種類 軸用
第三回 止め輪の種類 穴用 止め輪の取付方向
第四回 止め輪の種類 特殊機能付きの止め輪
第五回 止め輪の材料
第六回 止め輪の熱処理・表面処理(本稿)


止め輪に施される熱処理・表面処理


止め輪は適切な材料を選んだだけでは十分な性能を発揮できません。その材料に「熱処理」を施し、内部組織を制御することで、弾性や強度といった機械的性質を引き出しています。


なぜ熱処理や表面処理が必要か

ばね鋼などの素材は、そのままでは硬さや弾性が不足しています。止め輪に要求されるのは「変形しても元に戻る弾性力」と「高い疲労強度」であり、これは金属の組織を変化させることで得られます。
熱処理を行う目的は以下の通りです。
•硬さと強度の向上
•弾性限度の増加
•摩耗や疲労への耐性強化
•残留応力の除去


熱処理

鋼製止め輪の多くは焼入れと焼き戻しを行うことで必要な機械特性を獲得させます。



(1) 焼入れ(Quenching)

鋼を高温(一般に750〜900℃程度 鋼種によって異なる)に加熱した後、水や油で急冷する方法です。これにより「マルテンサイト組織」が形成され、硬度と強度が飛躍的に増加します。ただし脆くなるため、そのままでは使えません。

(2) 焼戻し(Tempering)

焼入れ後に200〜500℃程度で再加熱し、硬さを適度に下げながら靭性(粘り強さ)を与えます。止め輪は「硬さと靭性のバランス」が重要であるため、この工程が必須です。
※熱処理については「ファスナーと熱処理」(フジモトボサードnote)もご覧ください。



主要な表面処理

次のような表面処理も目的に応じて行われます。
•防錆と潤滑性の付与のためのリン酸塩被膜処理(リン酸亜鉛またはリン酸マンガンの黒灰色の化成皮膜を形成させる方法の総称)。
•耐食性向上のための亜鉛めっきニッケルめっき
•表面硬度と耐摩耗性を高めるための窒化処理
さらに、疲労強度を向上させる目的で鋼球を高速で表面に打ち付け、圧縮残留応力を与えるショットピーニングと呼ばれる処理が行われることもあります。この処理は特に切欠き部を有し繰り返し荷重を受ける止め輪では、疲労寿命向上に有効です。
※表面処理については「ファスナーのコーティング」(フジモトボサードnote)もご覧ください。



このように熱処理や表面処理等を組み合わせることで、止め輪は小さいながら大きな力に耐える部品となります。

止め輪は適切な材料選択と熱処理・表面処理が施されなければ、使用中に「割れる」「伸びる」「外れる」といった問題を引き起こします。逆に言えば、適切な材料・熱処理・表面処理は、止め輪の寿命と信頼性を決定する重要な要素と言えます。


まとめ

止め輪は、小型で目立たない部品でありながら、時計や小型のモーター、家電から自動車のトランスミッション、そして航空機用部品まで、あらゆる機械要素に使われ機械の安全性や信頼性を支える重要な役割を担っています。

止め輪は、工業製品の中で最もシンプルな部品の一つかもしれません。しかしその役割は非常に重要で、あらゆる製品を支えています。

次に時計を見たり自転車に乗ったりするとき、ドアノブを回すとき、家電製品を使うとき、あるいは自動車を運転するときに、「止め輪が頑張ってくれている」と思い出してくださると嬉しいです。


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