ねじの豆知識 「止め輪」 第五回 止め輪の材料
止め輪の機能を十分に発揮するためには適切な材料を選定することが重要です。
ねじの豆知識 「止め輪」
第一回 止め輪とは?
第二回 止め輪の種類 軸用
第三回 止め輪の種類 穴用 止め輪の取付方向
第四回 止め輪の種類 特殊機能付きの止め輪
第五回 止め輪の材料(本稿)
第六回 止め輪の熱処理・表面処理(近日公開))
止め輪(スナップリング)は、単純なリング状の見た目の部品ですが求められる役割は重要です。軸や穴に設けられた溝に取り付けるだけで部品を確実に保持することが期待されています。その機能を十分に果たすためには適切な材料の選定は欠かせません。
止め輪に求められる材料特性
止め輪にまず求められているのは、「取り付け時に拡げたり縮めたり」しても、再び元の形に戻り、かつ長期間にわたって強い保持力を発揮することです。そのため、材料には次のような特性が求められます。
•高い弾性
着脱のための変形に耐え、元の形状に復帰する能力。
•強度と靭性
運転中に部品が外れないよう、十分な引張強度と破断しにくさが必要。
•耐疲労性
繰り返し荷重や振動により折損しないこと。
•耐摩耗性
軸や穴と接触する部分が摩耗で削れないこと。
•耐食性
環境により錆びやすい状況でも性能を維持できること。
これらを満たすために、主に「ばね鋼」「ステンレス鋼」「銅合金」などが使われます。
代表的な材料
止め輪に高い頻度で用いられている材料を列挙してみます。
(1) ばね鋼(炭素工具鋼・合金工具鋼系)
鉄は有用な金属ですが、炭素をはじめ様々な添加元素を添加することでさらに有用な性質を持たせた炭素鋼や合金鋼となります。


止め輪に最も一般的に使われる鋼材料は、炭素量が0.6~0.85%程度の一般的に「ばね鋼」や「炭素工具鋼」と呼ばれる種類の炭素鋼です。炭素量が比較的に高く(流通量の多いSS材【一般構造用圧延鋼材】の炭素量は約0.25%以下)、焼入れ・焼戻し処理を行うことで高い弾性と強度を得られます。
•特徴:コストが安く、量産性に優れる。適切な焼入れ・焼戻し条件下で疲労強度に優れる。
•用途: C形止め輪、E形止め輪など一般用途に使われる止め輪に広く使用される。
※ばね鋼を含む鉄や炭素鋼については「ねじの話 ファスナー材料 金属 第二回 鉄鋼金属」、「ねじの話 ファスナー材料 金属 第三回 炭素鋼」もご覧ください。
(2) ステンレス鋼

錆びにくさが求められる環境でステンレス鋼製は選ばれます。ステンレス鋼はCr(クロム)を10.5%以上含む合金で、さびにくい金属として知られています。SUS301やSUS304などが材料としてよく用いられます。特に止め輪のようにばね性を重視する場合は、冷間加工硬化が得やすいSUS301が多く用いられます。
•特徴:耐食性が高く、屋外や水回りで有効。析出硬化系ステンレス鋼など熱処理により硬度を高められるステンレス鋼もあります。
•用途:自動車、家電、屋外機械など腐食環境での使用。

(3) 銅合金(リン青銅・ベリリウム銅)
電気的導電性や耐食性が特に求められる場合に使われます。
•リン青銅:銀の次に電気抵抗の少ない銅(Cu)を主成分に錫(Sn)を含む青銅の一種です。青銅の脱酸にリン(P)を用いるため、合金中にわずかにリンを含有しています。ばね性と耐食性に優れています。
•ベリリウム銅:ベリリウム銅は、銅の中に2%以下の少量のベリリウムを含有させ特殊な熱処理を行なって特性を引き出します。銅の「熱をよく通す」と「電気をよく通す」という特性を維持したまま、特殊鋼に匹敵する強度や耐食性を兼ね備えることができます。高強度で電気伝導性も優れるため、電気接点を兼ねる場合に利用されます。
材料の選択基準
「使用環境」と「要求性能」に応じて材料は選ばれます。簡潔にまとめると
•高負荷・高強度が必要 → ばね鋼
•水や薬品にさらされる → ステンレス鋼
•電気部品と兼用 → 銅合金
このように止め輪の材料は、たくさんの金属材料の中から、求められる機能を満たせるかどうかで選択されています。「安い」「入手しやすい」というのも重要な要素ですが、それだけでは決してありません。
選びぬかれた材料を生かして止め輪としての機能を最大限に発揮するためには適切な熱処理・表面処理が欠かせません。次回はこれらの処理技術に注目します。


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